お砂糖を初めて魔法で作った日から3日、僕は未だに森に行く事ができないでいた。
何でも、メンバーの1人か近くの村まで買出しに行って帰って来ないらしいんだよね。
とは言っても別に何か問題が起こってると言うわけじゃなくって、出かけた日が僕たちが帰って来た次の日だった上にそれ程遠い村じゃないから行きは1日で着くらしいんだけど、運んでくるものがとっても重いから帰りは馬車でも2日近くかかるんだって。
でも今日の夜には帰って来るそうだから、多分明日には森に行けると思うよって、お父さんはそう言ってたんだ。
「お母さん、それでそのとってもおもいものって何?」
「牛乳よ。あれはお酒と違って木の樽に入れて持ってくるとすぐに悪くなってしまうから、町で買った密封できる丈夫な金属製の入れ物に入れて持ってくるからとっても重いのよ。それに運んでくる馬車もわざわざ帝都から取り寄せた氷の魔石を使って作られた物を冷やす事ができる特別製の魔道馬車だからそれ自体も普通のものより重くてね。そのせいでいつも時間が掛かってしまうのよ」
そっか、牛乳かぁ。
僕たちが住んでいるグランリルには殆ど牛がいない。
なぜかって言うと、それは近くの森に魔物が発生するほど強い魔力溜りがあるからなんだ。
この森には他の地域より比較的強めの魔物が多くいるんだけど、近くにいる動物はみんな小型のものばかりだからなんとかなっているという部分もあるんだって。
お父さんたちが言うにはこの森にある魔力溜りの魔力特性は巨大化と骨強化らしくて、普通なら豚くらいの大きさのはずの猪が魔物であるブラックボアになると牛くらいになっちゃうんだもん、もし村で飼っている牛が逃げ出して森で魔物になっちゃったらどれだけ大きくなるか解んないよね。
それにそこまで大きくならなかったとしても、その時はもう一つの属性である骨強化が強く出てるって事だから突進力があって強力な角を持つ魔物が生まれるって事だし、何より直線的な攻撃しかしない猪と違ってある程度小回りが利く牛が魔物になったりしたら大変だから万が一にもそんな事故が起きないよう、この村にはしっかりと管理がされた上で飼われている開墾用の牛が数頭いるだけなんだ。
と言う訳で毎日使う牛乳を買う為に、二週間に一度は誰かが隣村まで牛乳を買いに行かなきゃならなくって、それが運悪くいつもお父さんたちといっしょに狩りに行ってる人の順番にだったおかげで僕がお預けを食ってるってわけなんだ。
こういう理由で森行きは遅れてるわけだけど、じゃあ僕が村に帰って来たばかりの時のようにやる事がなくて困っているかと言えばそうでもないんだよね。
「ルディーン。友達が来たから、雲作ってよ」
「いいけど、おさとうは?」
「持ってきてるそうだから大丈夫」
僕がお手伝いを終えて家にいると、レーア姉ちゃんが友達が食べたいって言ってるから魔道具を動かしてって頼みに来た。
このように初めて雲のお菓子を作った日から今日まで、僕はなんども雲のお菓子を作らされてるんだよね。
と言うのもあの魔道具は僕かキャリーナ姉ちゃんが居ないと動かないからなんだ。
雲のお菓子を作る魔道具はスティナちゃんに食べさせてあげるんだって急に思いついて作ったもんだから、魔石を使う場所にそのまま設置したかなり単純な構造なんだよね。
だから当然手間のかかる魔石に魔力を補充する為の魔道リキッドを入れるところも魔石を浸すような部分も作ってないから、動かすたびに魔法を使える人が自分で魔石に魔力を注がないといけないんだ。
で、うちで魔力を注入できるのは僕とキャリーナ姉ちゃんだけだし、何より作ったのは僕なんだからってお母さんやヒルダ姉ちゃん、それにレーア姉ちゃんが毎日僕に頼みに来るようになっちゃって、最後にはキャリーナ姉ちゃんまでついでに作ってって言い出したもんだからこの3日間は結構な頻度で魔道具を動かすことになったって訳。
おまけに雲のお菓子を木の棒に巻き付けるのも結構難しいらしくて、ヒルダ姉ちゃん以外は僕がやった方が見た目がいいからって結局雲のお菓子を作るところまでやらされてるんだよね。
やっぱり誰でも作れるように、魔道リキッドで動くのも作ろうかなぁ。
そんな事を考えてると、
「ルディーンにいちゃ! くもつくって!」
初めて作った日から皆勤賞のスティナちゃんが登場。
う〜ん、魔道リキッドで動かせて誰でも作れるようになったらスティナちゃんの分はヒルダ姉ちゃんが作るようになるだろうし、そうなるとお兄ちゃんらしい事ができなくなっちゃうなぁ。
何か別の事ができるようになるまで、やっぱりこのままでいいか。
と言う訳で魔石に魔力を注入。
魔石に入るだけ全部の魔力を注いだら結構な数の雲のお菓子が作れるけど、今日はレーア姉ちゃんとそのお友達の2人分とスティナちゃんの分だけだからそこまでの魔力は要らないだろうと思って、少しだけ入れてスイッチオン! 中央の缶が回りだしてその下が赤く光ったのを確認した僕は、早速お砂糖を入れたんだ。
「わぁ、本当に雲みたいなのが出てきてる」
「ねっ、すごいでしょ。これ、食べるとすっと溶けて、とっても甘いんだから」
「楽しみ!」
するとすぐに雲のようなものが寸胴鍋の中に出来上がっていって、それを見たレーア姉ちゃんとそのお友達が大興奮。
そしてお砂糖の雲がある程度たまったところで僕は木の棒にそれを絡め取って行き、
「はい、できたよ」
「わぁ! ありがとう、ルディーン君」
入れた分のお砂糖を全部絡め取って大きな塊になった出来立ての雲のお菓子をレーア姉ちゃんのお友達に差し出すと、それを嬉しそうな顔をして受け取って僕にそうお礼を言ってくれたんだ。
「ルディーンにいちゃ! スティナの、スティナのわ!?」
そしてそれを見たスティナちゃんが、自分の分はまだかって怒ってきたもんだから、僕は大慌ててお返事。
「だいじょうぶだよ、すぐ作れるもん。レーア姉ちゃん、スティナちゃんの分を先に作っていい?」
「ええ、いいわよ」
「ありがとう。じゃあスティナちゃんの分、作るね」
「あい!」
こうして僕は、続けて2人の分を作ってあげたんだけど、
「おっ、ルディーン。それが噂の雲のお菓子か?」
「へぇ、これがあの」
そこに一番上のお兄ちゃんであるジャック兄ちゃんが登場。
おまけにその横には、お兄ちゃんとパーティーを組んでいる近所のお兄ちゃん、お姉ちゃんたちが居たんだよね。
で、ジャック兄ちゃんに続いてパーティーを組んでいるうちの一人であるお姉さんがそんな事を言ったもんだから、レーア姉ちゃんの目が途端に細くなる。
「噂って、これの事はうちとヒルダ姉さんの家くらいしかまだ知らないはずでしょ。それともお兄ちゃんが話して周ってるのかな?」
「いや、そんな事は……」
「その割には、パーティーの女性陣は知ってる風だったけど?」
あの感じからすると多分パーティー内でジャック兄ちゃんが話しちゃったんだろうね。
でもこのお菓子を作ろうと思うとお砂糖も使うし、なにより僕が魔力を注入しないといけないからなぁ。
あんまり多くの人が頼みに来るようになったら、困っちゃうんだよね。
だからレーア姉ちゃんはジャック兄ちゃんにこんな事を言ってくれたんだと思う。
あんまりみんなに教えないでねって。
「大方女の子たちにいい恰好したくてルディーンのお菓子の事話したんでしょ」
「そっそう言うお前だって、友達を連れてきて自慢してるじゃないか!」
……えっと、僕の事を考えて言ってくれてるんだよね? いつの間にか兄弟喧嘩みたいになってるんだけど。
「ルディーにいちゃ……」
「あっうん、だいじょうぶ。お兄ちゃんもお姉ちゃんも本気でけんかしてるわけじゃないと思うから」
そんな2人を見て怖くなったのか、スティナちゃんが僕の服の裾を引っ張って来たもんだから、そう言って安心させてあげようとしたんだ。
大丈夫、何にも怖い事なんかないよって笑いながらね。
「くものおかしわ?」
……どうやら違ったみたい。
スティナちゃんはお兄ちゃんたちの喧嘩にはまったく興味がないみたいで、そんな事より早くお菓子を作ってって言いたかっただけみたいなんだよね。
と言う訳で、喧嘩してる2人を放って置いて雲のお菓子作り再開。
さくっとスティナちゃんの分を作り上げると、今度はジャック兄ちゃんのお友達? の女の人たちが僕に話しかけてきたんだ。
「ねぇルディーン君。私たちにもそれ、作ってくれない? 使った分の砂糖は後でちゃんと持ってくるからさ」
「いいけど、お兄ちゃんたちはほうっておいていいの?」
「いいんじゃない? だたの兄弟喧嘩みたいだし」
どうやらお兄ちゃんより初めて見るお菓子の方に興味があるらしくって、そんな事よりお願いねって言われちゃった。
かわいそうなお兄ちゃん。
この後、ジャック兄ちゃんの男のお友達の分も作ってあげたり、途中でそれに気が付いたレーア姉ちゃんが、
「ちょっとルディーン、次は私の分を作るはずでしょ」
と言い出したもんだから慌てて作ったりしたんだ。
そしてそんな風にみんなでわいわいしていたら、当然家の中にいるお母さんやキャリーナ姉ちゃんも何事かと思うよね。
結果、僕は魔石に魔力を再度注いで、みんなの分の雲のお菓子も作る事になっちゃったんだ。
そしてその夜。
「こんなのでも、つくんだ」
明日は多分森に連れて行ってもらえるだろうって思った僕が、今の状態を確認する為にステータス画面を開くと、
一般職 :魔道具職人《12/50》 錬金術師《4/50》 料理人《2/50》
この3日間、言われるままみんなの雲のお菓子を作り続けたからなのか、一般職の所に新しく料理人が追加されてたんだ。
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